レーザーショウ「キト伝説」最終章
「分水嶺物語」随想

"今までにないものを・・・
いつもそう考えてきた"


金子卓司



"あらゆる神のまた神である影の存在、キト"


 「分水嶺」と名の付く物は全国にたくさんあるから「ひるがの分水嶺」にしてほしい。」・・・この物語ができた直後、観光協会からの要望があった。僕はさすがに戸惑った。タイトルに観光名所の名前を使うことはできれば避けたかった。

 時は700年代。
キトが降臨してからまだ数十年という高鷲。当時はまだ「陀羅(だら)」と呼ばれていた時代だ。
きこりの兄妹が、度重なる洪水に見舞われる村を救うため、山の邪神「阿云珠螺(あぬじゅら)」に生贄として身を捧げる決心をする。祈祷師「柚妃えな(ゆひえな)」
はキトと会い二人を守る手立てを授かるが、運悪く二人は大きな岩に封じ込められてしまう。

 といったあらすじをまず思いついた。
さて、問題はこの先どうしようか?ということだった。
そう、それなんだ。そこから先が出てこない。
数日考えたあげく、岩を山の頂上に置いてみてはどうか。いきなりの展開だが、山の邪神がすることだ、十分ありうる。この岩が邪神の心臓部にあたるのかもしれない。棲家なのかもしれない。

 いずれにせよ、この岩を使って何かをしようと考えた。

 そういえばキトはどこで出番があるのか。
あらゆる神のまた神である影の存在、キト。
流れとしては、この岩を割って、中の二人を助け出す。これが自然な流れだと思った。それで、万事うまく収まるはずだ。
よし、これで行こう!

 僕は物語をすべて完成させた。
阿云珠螺はキトに倒されて、封じ込められていた岩から二人が戻ってきて柚妃えなと涙のご対面・・・The End!さようなら、キト!



" あらゆる場面を考えた。
そして、思いついたのが"




あかん!

面白くない!

 どこにも分水嶺らしさがない。高鷲にこれがある理由が、わからない。
というか、それを作り出すことができれば、完成と言ってもよいだろう。

 また悩んだ。
あらゆる場面を考えた。
そして、思いついたのが、

「岩をキトが真っ二つに割り、それぞれが山を転げ落ち、それがやがて川になった」

 というものだった。
キトならば、何とかすれば岩くらい割れるだろう(割ってくれ!)。そして中の二人は助かる。と同時に割れた岩は、それぞれ逆の方向へ洪水の水を伴って、山から転げ落ちてゆく。そして、岩が作った道を水が流れてゆき、二つの川ができる。
これが、長良川と荘川になった・・・

できた!
これで行こう!


 あとは「起」の部分。
原因は、やはり何か戒めの心を表現したい。
ということで、山の動物を人間がたくさん獲った、ということにした。

「キト伝説」は一種警告、警鐘の物語でもあるので、幾分唐突だが、それでいいと思った。



"それ以上はおかしいよ。という、「ボーダーライン」。
それが、「キト伝説」の根幹にある"




完成した台本はスタッフ全員に配布された。
「ひるがの分水嶺」という言葉を最後に忘れずに織り込んだ。

 レーザーショウ「キト伝説」は、これで最後である。
今までいろんな悪霊が生まれては、キトに封印あるいは退治させられてきた。
しかし、どの悪霊も、生まれ出た大元の原因は人間にあった。

 米を粗末にした、樹木を伐採しすぎた、動物を傷つけた、等々。
思えば、何も難しいことじゃない、常識的に考えてみればイケナイことばかり。
ここまではまあ許せるけど、それ以上はおかしいよ。という、「ボーダーライン」。
それが、「キト伝説」の根幹にある。

もっと簡単に言うと「品格」、・・あー、難しくなっちゃう。


高鷲村から高鷲町へと名前は変わっても、僕はこの場所をもっと盛り上げていきたいし、前村長さんの10年前の言葉をお借りすれば「札幌の雪祭りに負けないものにしたい。」という気持ちは今もまったく同じだ。
その気持ちを形にしてきたのがこの「キト伝説」なのである。

どこにもない、今までにないものを、作りたい。
キトというキャラクターが高鷲を引っ張っていってくれるように。
いつもそう考えてきた。


高鷲の、そして、高鷲に遊びに来てくれた子供達のために作ってきた「キト伝説」。

大人になっても時々思い出してくれ。


残念ながらこれにて、終了!


KITHO will NOT back in Takasu!!